選挙の話:黒い日曜日

久々に更新。

忘れないように書き残しておきたいことはたくさんあったんだけど、忙しくてできませんでした。

忙しいって言っても、ホントのところはそれほどではないんですけどね。

 

5月に入っても、雪が降ったり、寒い日がけっこう続いていましたが、ようやくさわやかで良いお天気の日々がやってきました。

朝晩は肌寒いけど、日中は20℃前後という気持ちのいい気温で、日も長いし。

 

さて、26日日曜日、連邦政府議会、地域政府議会、EU議会の選挙の日で、そういうさわやかなお天気の中、投票に行ってきました。

ブリュッセル首都圏の投票場はすべてエレクトロニック、去年10月の地方選の時は、私のところはインフォルマティックのトラブルで、ちょいと並んで待たないといけなかったけど、今回はスムーズ、ほとんど待つ必要もなく、ほいほいと投票を終えて帰宅。

 

去年の6月からずっと旅に出ていた長女くんも、この投票日に間に合うように旅を終え、ブリュッセルに戻ってきました。

ベルギーでは投票は市民の義務なので。

行かないと罰金です。

取り締まりは、なんでもゆるゆるのベルギーらしく、それほど厳しくない印象ですが。

 

その日は夕方からずっと、TVでライヴで投票の結果に関する放送が行われていました。

もちろんTVのない私みたいな人でも、ネットでずっとフォローできます。

 

日本でも報道されたかもしれませんが、北のフランダースでは極右政党が、南のワロニアでは極左政党が躍進、特にフランダースの極右政党はN-VAという右派政党につづく第二政党になっちゃいました。

連邦政府でも第3政党に…。

 

連邦議会

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ブリュッセル首都圏議会では、議席は減らしたものの社会党が第一政党、緑の党が大躍進で第二政党。

極左のPTBも議席を倍以上に増やしました。

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フランダースはご覧のとおり、ナショナリストで右派のN-VAと極右のVBを合わすと、過半数とはいかなくとも、かなりの規模。

緑の党があまり増やせなかったのが意外でした。

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ワロニアでは、今までも強かった政党がなんとかそれぞれ第一、第二のポジションを維持したものの、緑の党極左が躍進。

緑の党の躍進には、若者たちが1月に入ってから選挙直前まで、毎週行っていたデモの効果ではないでしょうか。

ちょっと感動的。

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そしてドイツ語圏。正直なところ、ドイツ語圏については私はよくわからないのだけど、記事を読むと、前回の第一政党であるキリスト教社会党をぬいて、ドイツ語圏の利益を守るというProDGという政党がトップになったそうです。

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そしてEU議会。ベルギーは21議席を持っているのですが、極左の仏語圏のPTBが初めて議席を獲得、緑の党も、仏語圏・オランダ語圏合わせると2番目に多く議席を獲得。

そして、1議席だったのが3議席に増えたのが、極右のVB。

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フランスのEU議会選挙でも、マリーヌ・ル=ペンのRNが一番多く得票しちゃいましたよね…。

 

 

極右のVBの大躍進、多くの人にショックを与えています。

(思えば、バノンがアントワープにやってきて、ル=ペンなんかも加わって、VBにいろんな知恵を与えていたもんね…。)

 

N-VAはVBにけっこう近いので、党首は、自分たちの議席は減らしたものの、連邦議会を、フランダースの利益のためにブロックできるようなことを言ってました。

VBと連立政権を組むとまでは言ってませんが…。

前の前の政権のとき、1年半にわたって組閣できない事態がありましたが、また今回もそうなるのかな?

 

極右が大躍進したことで、この投票日を「黒い日曜日」と呼び、ニュースでさかんに«Cordon Sanitaireコルドン・サニテール»という言葉が使われていました。

なんだろ、と思って調べたんだけど、30年前にやはり極右政党が大躍進したとき、それを食い止めるために、他の政党が極右政党とは連立しないことを決めたことをそう呼んだらしい。

この言葉自体はもともと、1918年、スペイン風邪が大流行した時、フランス政府がフランスへの流行を食い止めるために、ピレネーに軍を送った時に使われたものだそうです。

 

現在のVBの党首はまだ32歳と若く、若者受けしそうな外観。(これもバノンの入れ知恵か?)

投票日の夜には、もう大躍進が見えていたので、ジャーナリストが「コルドン・サニテールについてどう思う?」とインタビューしていましたが、それ自体にはノーコメントであったものの、自分たちはデモクラティックな方法で躍進したのだ、と、強調していました。

 

 

デモクラティックねえ…。

 

そんなこんなで、オルテガの「大衆の反逆」なんて言葉を思い出し、言葉だけ知ってはいても、内容に関してはよく知らないので、ちょいと調べたりしちゃいました。

>・・・ ils jouissent de tous les apports de la science et de la technique, mais ils en jouissent en « primitifs », c'est-à-dire sans en connaître les principes. Selon cette logique, comme cela comble tous leurs besoins, ils ne ressentent nullement la nécessité d'apprendre, de connaître, de comprendre, de se cultiver. Ortega les qualifie de brutes amorales aux idées grossières qui jouissent du nec plus ultra que leur procure une civilisation perfectionnée dont ils n'ont aucune conscience historique. ・・・

 

↑ 単にWikiっただけですが、科学や技術の恩恵を「原始的に」享受するだけで、その原理原則(何故そういう技術が必要とされたかの理由のことだよね)を知ろうとはしない。自分に必要なものは全てそろっているから、何かを学び、知り、理解し、教養を積もうともしない、それをオルテガは厳しく批判している、ってことで、ま、今の時代にそのまま当てはまっちゃいますよね…。

 

 

会話も成り立たないほどの分断が存在する中、自分は自分の価値観に沿って、できることを、できる形でやっていくしかあるまい、と思います。

選挙の翌日、うちに3女が顔見せにやってきたんですが、やはりそういう話に落ち着きました。

今回の極右政党の大躍進に、夜眠れなかった友人が何人もいた、とも言ってました。

 

私は、ベルギーという国は、もちろん欠点もいっぱいあるけれど、「多様性と寛容」という、私には今の時代最も必要と思われる価値観を、もっとも体現する国の一つだと思っています。

だから大好きで、ここに住んでいる。

そして、なんとしてもそれを守ってほしい、と思っています。

そのための「武器」は、やはり「人権という考え方」だと思う。

 

アンドレ・グリュックスマン『思想の首領たち』の、訳者による後書きより抜粋

「人権尊重の立場は、人がこれまで戦争(闘)万能主義に反対するために見出した最良の立場である。問題になるのはもはや、ある特定のヨーロッパ的な人間像を世界のいたるところに押し付けることではなく、その逆に、あれこれの天国の門を開くなどと主張せずに、地獄の門に蓋を設けることなのである。何が極楽であるかということについては人によってそれぞれ違うが、何が悪であるかということは誰でも等しく認めあうからだ。<・・・>善の普遍性というものはない。あるのはただ、普遍的で、いたるところに広がっている悪である。悪といえば何か、戦争、破壊、強制収容所的地獄、憎悪、権威主義、それからあからさまな、もしくは隠された奴隷制…などのことだ。」

 

これは以前書いた、アンドレ・グリュックスマンが亡くなったときの記事 ↓ に記したものです。

shohoji.hatenablog.com

あ、そういえば、この人の息子のラファエル・グリュックスマンが、今回のフランスのEU議会選挙に、社会党から出馬してました。

今見たら、当選したようです。

 

 

さて、この辺でオシマイにしましょ。

疲れてきちゃった。

 

あ、そういえば、昨日のニュースで、EU議会に関する投票、重国籍の人でも一つの国でしか投票できないのに、横のコミュニケーションがしっかりしてないんで、複数国で投票してもわからない、って問題について話してました。

あらま、と思ったので、ここでメモしておきます。